32 - 豚貴族は未来を切り開くようです ~二十年後の自分からの手紙が全てを教えてくれました。どうやら俺はこのままでは婚約破棄され、廃嫡され、完全に人生が詰むようです。なので必死にあがいてみようと思います~(しんこせい) - カクヨム

nội dung

 二人は近くにあった岩の陰で休止をしながら、ロデオ達の戦いがどうなっているかを確認するよりも先に、魔力ポーションをがぶ飲みして魔力を回復させていた。

「ロデオさん、勝ってるかな」

「そんなことを言っている暇があればポーションを飲め。魔力欠乏症では足手まといにすらならん」

 魔力欠乏症とは、魔力が足りなくなると起こる症状のことを指している。

 魔力とは、人間の活動に不可欠な力である。

 それが生命維持に必要な量よりも減り、危険域に達すると、身体が貧血に似た症状を引き起こすようになるのだ。

 二人は完全に、この魔力欠乏症になりかけていた。

 そこから脱するためには、時間が経つのを待つのか、魔力ポーションを飲むしかない。

 ヘルベルト達は後者を選び、とにかく持ってきていたポーションをがぶ飲みして最低限魔法が打てる程度にまで魔力を回復させた。

「……」

「……(コクッ)」

 二人は言葉は発さず、互いに目配せをして頷き合う。

 魔力ポーションを飲みきるより少し早い段階で、既に剣戟の音は止んでいた。

 勝負の決着はついたと見ていいだろう。

 ヘルベルトはロデオが負けるとは思っていなかったが、念のために魔法を発動する準備を整えて。

 マーロンはもしものことがあるかもしれないと、剣をいつでも抜ける体勢を維持したまま、岩陰から飛び出して戦闘音の聞こえていた場所まで向かっていく。

 二人が向かった先には――全身を緑色の返り血でドロドロにしているロデオと魔人の姿があった。

 二人は正反対の方を向き、互いに剣を構えたまま、残心の状態を維持している。

 ロデオの持つミスリルソードは緑色の血にまみれ、魔人イグノアの剣のような緑色に変色していた。

 魔人とロデオの間にある空気があまりに張り詰めていることに、ヘルベルト達は思わず唾を飲み込む。

 今の自分達があの魔人と戦っても、勝てなかったかもしれない。

 そう思わせるほどの殺気が、ビリビリと二人の肌を刺した。

ブシュッ!

 ロデオの鎧が切り裂かれた。

 そして胸に大きな切り傷が生まれ、血が噴き出す。

 それを見てマーロンは顔を青くしたが、ヘルベルトの方は顔色を変えなかった。

 ロデオが切り裂かれるのに少し遅れて、魔人の首が徐々にズレていたからだ。

 ゴトリという無骨な音を立てて、魔人の首が地面に落ちる。

 勝利の女神は、ロデオに微笑んでくれたようだ。

 ロデオはピッと剣を振り、ついている血を飛ばす。

 そしてわずかな物音に敏感に反応し、一瞬のうちにキリッとした顔を作ってヘルベルト達の方へその鋭い視線を向けた。

 だがその音の正体がヘルベルト達であることを理解すると、その剣鬼のような表情は一瞬のうちに霧散する。

「若……ご無事でしたか」

「ああ、きわどい勝負だったが……なんとか勝てたぞ」

「戦いとはそういうものです。ありえぬことがまま起こるからこそ、時の運などという言葉があるのですから」

 ロデオは近くに生えている木の葉を千切り、剣を拭いた。

 それを見てヘルベルト達も自分達の得物がひどい状態であることを思い出し、後を追って剣の血を拭き取っていく。

「若、魔力の残量はいかがですか?」

「正直、アシタバの所まで持っていくだけの余裕はまだない。もう少し時間がほしい」

「私もある程度、魔力ポーションを持ってきておりますので、お飲み下さい。若の魔力が回復するまでは、私とマーロンで見張りをします。幸いここは魔物も寄りつかぬようですし、視界が開けているので不意打ちの可能性も低いですから」

 マーロンは一瞬眉をしかめたが、ここにやってきた目的を思い出し、ロデオと共に周囲の警戒を行い始める。

 ヘルベルトは少しでも魔力の回復が早まるように、地面にあぐらを掻き、目を瞑り、座禅を組む。

 心を落ち着けて動かずにいれば、若干ではあるが魔力回復の速度が上がるのである。

 こうしてヘルベルトの回復を待つこと一時間ほど。

 三人は再度『石根』を今度こそ無事に採集することに成功。

 ディメンジョンの中に入れ素材の鮮度が落ちぬよう気を付けながら、ヘルベルト達は『混沌のフリューゲル』を後にするのだった――。

Tóm tắt
二人は魔力ポーションを飲みながら、ロデオの戦いを見守っていた。ロデオは魔人イグノアとの激闘の末、勝利を収める。傷を負ったロデオは、ヘルベルトとマーロンと共に周囲を警戒しつつ、魔力を回復させる。彼らは無事に『石根』を採集し、次の目的地へ向かう。