【ルシアンホールディングス】悪質M&Aで中小企業を食い荒らす事件屋【鹿島ガーデンヴィラ】

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 先月号に「事件屋に乗っ取られた鹿島ガーデンヴィラ」という記事を掲載したが、それに合わせるように中央紙が、この事件屋の手口を詳細に報じるようになった。事件屋が仕掛けた悪質M&Aで経営破綻するなどした企業は全国37社に上る。

鹿島ガーデンから流出した1億円超の行方

鹿島ガーデンから流出した1億円超の行方

 先月号で白河市の老舗結婚式場鹿島ガーデンヴィラ(以下、鹿島ガーデンと略)の運営会社㈱ピーアンドケーカンパニー(以下、ピーアンドケー社と略)が廣田彰人氏、嘉多山尚氏、税理士法人明清の神田卓志税理士が仕掛けたM&Aにより乗っ取られた経緯をリポートした。廣田氏らに騙され、ピーアンドケー社の社長に就かされた福地一信氏と、福地氏の知人で同社取締役の佐々木辰尚氏が本誌の取材に応じ、事の詳細が明らかになった。

 詳しくは先月号を参照していただきたいが、本誌記事が出たタイミングで中央紙も廣田氏らの手口を大きく報じ、ピーアンドケー社とは別の被害者の声を紹介している。

 まずは東京新聞。5月3日付でネット上に「『M&A』名目で中小企業に入り込みカネを巻き上げ…悪質投資会社の手口とは 全国で相次ぐ被害」という記事を配信した。以下、主要部分を抜粋する。

 《問題になっているのは東京都千代田区の投資会社「ルシアンホールディングス」。自らの商社も被害に遭い、「被害者の会」を取りまとめる富山市の荒川公一さん(61)によると、2021~23年にかけ、全国37社が被害に遭った。業種は飲食会社や建設、電気工事など幅広い。複数のM&A仲介業者を通じ買収を持ちかけていた。

 都内で洋菓子店を経営していた企業もその一つ。経営していた60代男性は、経営不振から売却を考えていたところ、仲介業者からルシアンを紹介された。面談で、ルシアン役員は「うちは資金状態の悪い会社を再生させるのが得意」と自信ありげに語ったという。

 昨年4月に自社の株式を売却。代表取締役にはルシアン役員が就いた。しかし、会社の連帯保証人を新経営陣に切り替えるはずが、ルシアン側は多忙を理由に変更しなかった。一方、ルシアン役員は社長として月100万円の役員報酬を取り、従業員から借りた1000万円を踏み倒した上、2カ月分の従業員給与を未払いのまま消息を絶った》

 手口は前出・福地氏が取材で語っていたピーアンドケー社の乗っ取りと同じだ。

 被害に遭ったのは喫茶店経営や菓子の製造・販売を行っていた㈱テリオ(東京都新宿区)。法人登記簿を見ると2023年4月に前経営者に代わって廣田氏が社長に就いている。

 記事中に出てくる㈱ルシアンホールディングス(東京都千代田区)は本誌先月号で紹介している。2021年設立。役員は代表取締役・廣田彰人、福地一信、取締役・佐々木辰尚、山内五郎、荒木正喜、嘉多山尚の各氏と、会計参与に税理士法人明星が就いている。

 東京新聞は同社を「投資会社」と書いているが、福地氏によると「本社は都内となっているが、単なるレンタルオフィス。電話も、かかってきたら取り次いでくれるサービスを利用していただけ。廣田からそうしろと言われていたので、そういう体にしていたんです」。廣田氏のデタラメな手口がうかがい知れる。

 東京新聞に続いて報じたのが朝日新聞だ。同紙はM&Aに関する特集記事で、廣田氏らの一連の手口を紹介した。以下、5月11日付「頼ったM&A仲介 中小に落とし穴」より抜粋する。

 《会社を売却した前経営者らへの取材によると、茨城県土浦市に拠点がある法人グループが2021年以降、10社超の仲介業者を通じ、飲食店や建設業者など約30社を買収した。コロナ禍で赤字に陥り、重い負債を抱える中小企業が多い。

 一部の会社は「預かり金」などの名目で現預金を引き出された。多くの会社で資金繰りが悪化し、従業員の給与や取引先代金、年金・税金などの遅延や未払いが多発した。買収先の多くで社長に就いた買い手の法人グループ代表(64)は昨年末から行方がわからなくなり、警察に被害を相談している買収先もある。

 法人グループの共同代表の男性(30)は取材に応じ「事業を買収して再生すると言われたが、実態は違った」と証言した。買収先から引き出した現預金は、親会社の運営資金やM&A仲介業者の手数料、他の買収先の補填などにあてたとし、「途中から自転車操業だった」と振り返った》

 記事中に出てくる「法人グループ代表」は廣田氏、「共同代表の男性」は福地氏である。

「被害者の会」の攻防

土浦市のビルに置かれた拠点には乗っ取った企業の決算資料などが入った段ボール箱が大量に置かれていた

 買収先から引き出した現預金の行方は本誌先月号で福地氏が証言してくれたが、記者はその後、ピーアンドケー社の資金がどのように流出したかを示す一部証拠を入手した。同社の通帳の中身が写った複数の写真データだ。

 それによると、

 ①ピーアンドケー社が廣田氏に株式を売却(2021年10月28日)した11日後の同年11月8日、同社から明清の口座(常陽銀行)に2000万円と4000万円、計6000万円が振り込まれた。

 ②それから11日後の同年11月19日、ピーアンドケー社の口座(常陽銀行)に明治安田生命から約87万円と約1787万円、計1874万円が振り込まれた。

 ③さらに6日後の同年11月25日には、ピーアンドケー社の同じ口座にジブラルタ生命から約8718万円が振り込まれた。廣田氏らが現金化できるものは全てカネに換えようと、急いで生命保険を解約したものとみられる。

 ④この口座から翌26日に2500万円が引き出され(行き先不明)、さらに1億円がピーアンドケー社の別の口座(神田税理士が開設したJA水郷つくば)に振り込まれた。

 ⑤それから4日後の同年11月30日、この1億円のうち3000万円が明清に、3000万円がルシアンホールディングスに振り込まれた。

 買収直後の企業で、短期間のうちにこれだけの大金が抜き取られていた――その事実だけで、ハナから事業再生する気が無かったことが伝わってくる。

 本誌先月号では、廣田氏らに乗っ取られた企業十数社でつくる「被害者の会」を代表して富山県の会社社長のコメントを紹介したが、この社長は前記・東京新聞の記事中に出てくる荒川公一氏だ。

 荒川氏は、首謀者である廣田氏と嘉多山氏が「行方知れずで連絡が取れない」(同)ため、神田税理士に事実関係や入出金の流れを説明するよう要求しているが、神田税理士の代理人弁護士から「ルシアンホールディングスの会計参与を解任されたので答える義務はない」と突っぱねられている。

 荒川氏によると、被害に遭った経営者の中には「これ以上関わりたくない」、「内情を明かすのは恥」と考える人もいるため、37社が一致結束しているわけではないという。荒川氏や福地氏は「廣田氏を絶対に許せない」と警察への情報提供にも積極的だが、「37社のうちの2社は直近まで廣田に面倒を見てもらっていたため、自分の会社が乗っ取られたことに気付いていない」(荒川氏)。

 後継者不在などで生き残りが難しい中小企業に向けて国が推奨するM&Aだが、本来の趣旨とは違う目的で困っている企業を次々と食い荒らす輩を、このまま野放しにしておいていいはずがない。


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 先月号に「事件屋に乗っ取られた鹿島ガーデンヴィラ」という記事を掲載したが、それに合わせるように中央紙が、この事件屋の手口を詳細に報じるようになった。事件屋が仕掛けた悪質M&Aで経営破綻するなどした企業は全国37社に上る。

鹿島ガーデンから流出した1億円超の行方

 先月号で白河市の老舗結婚式場鹿島ガーデンヴィラ(以下、鹿島ガーデンと略)の運営会社㈱ピーアンドケーカンパニー(以下、ピーアンドケー社と略)が廣田彰人氏、嘉多山尚氏、税理士法人明清の神田卓志税理士が仕掛けたM&Aにより乗っ取られた経緯をリポートした。廣田氏らに騙され、ピーアンドケー社の社長に就かされた福地一信氏と、福地氏の知人で同社取締役の佐々木辰尚氏が本誌の取材に応じ、事の詳細が明らかになった。

 詳しくは先月号を参照していただきたいが、本誌記事が出たタイミングで中央紙も廣田氏らの手口を大きく報じ、ピーアンドケー社とは別の被害者の声を紹介している。

 まずは東京新聞。5月3日付でネット上に「『M&A』名目で中小企業に入り込みカネを巻き上げ…悪質投資会社の手口とは 全国で相次ぐ被害」という記事を配信した。以下、主要部分を抜粋する。

 《問題になっているのは東京都千代田区の投資会社「ルシアンホールディングス」。自らの商社も被害に遭い、「被害者の会」を取りまとめる富山市の荒川公一さん(61)によると、2021~23年にかけ、全国37社が被害に遭った。業種は飲食会社や建設、電気工事など幅広い。複数のM&A仲介業者を通じ買収を持ちかけていた。

 都内で洋菓子店を経営していた企業もその一つ。経営していた60代男性は、経営不振から売却を考えていたところ、仲介業者からルシアンを紹介された。面談で、ルシアン役員は「うちは資金状態の悪い会社を再生させるのが得意」と自信ありげに語ったという。

 昨年4月に自社の株式を売却。代表取締役にはルシアン役員が就いた。しかし、会社の連帯保証人を新経営陣に切り替えるはずが、ルシアン側は多忙を理由に変更しなかった。一方、ルシアン役員は社長として月100万円の役員報酬を取り、従業員から借りた1000万円を踏み倒した上、2カ月分の従業員給与を未払いのまま消息を絶った》

 手口は前出・福地氏が取材で語っていたピーアンドケー社の乗っ取りと同じだ。

 被害に遭ったのは喫茶店経営や菓子の製造・販売を行っていた㈱テリオ(東京都新宿区)。法人登記簿を見ると2023年4月に前経営者に代わって廣田氏が社長に就いている。

 記事中に出てくる㈱ルシアンホールディングス(東京都千代田区)は本誌先月号で紹介している。2021年設立。役員は代表取締役・廣田彰人、福地一信、取締役・佐々木辰尚、山内五郎、荒木正喜、嘉多山尚の各氏と、会計参与に税理士法人明星が就いている。

 東京新聞は同社を「投資会社」と書いているが、福地氏によると「本社は都内となっているが、単なるレンタルオフィス。電話も、かかってきたら取り次いでくれるサービスを利用していただけ。廣田からそうしろと言われていたので、そういう体にしていたんです」。廣田氏のデタラメな手口がうかがい知れる。

 東京新聞に続いて報じたのが朝日新聞だ。同紙はM&Aに関する特集記事で、廣田氏らの一連の手口を紹介した。以下、5月11日付「頼ったM&A仲介 中小に落とし穴」より抜粋する。

 《会社を売却した前経営者らへの取材によると、茨城県土浦市に拠点がある法人グループが2021年以降、10社超の仲介業者を通じ、飲食店や建設業者など約30社を買収した。コロナ禍で赤字に陥り、重い負債を抱える中小企業が多い。

 一部の会社は「預かり金」などの名目で現預金を引き出された。多くの会社で資金繰りが悪化し、従業員の給与や取引先代金、年金・税金などの遅延や未払いが多発した。買収先の多くで社長に就いた買い手の法人グループ代表(64)は昨年末から行方がわからなくなり、警察に被害を相談している買収先もある。

 法人グループの共同代表の男性(30)は取材に応じ「事業を買収して再生すると言われたが、実態は違った」と証言した。買収先から引き出した現預金は、親会社の運営資金やM&A仲介業者の手数料、他の買収先の補填などにあてたとし、「途中から自転車操業だった」と振り返った》

 記事中に出てくる「法人グループ代表」は廣田氏、「共同代表の男性」は福地氏である。

「被害者の会」の攻防

土浦市のビルに置かれた拠点には乗っ取った企業の決算資料などが入った段ボール箱が大量に置かれていた

 買収先から引き出した現預金の行方は本誌先月号で福地氏が証言してくれたが、記者はその後、ピーアンドケー社の資金がどのように流出したかを示す一部証拠を入手した。同社の通帳の中身が写った複数の写真データだ。

 それによると、

 ①ピーアンドケー社が廣田氏に株式を売却(2021年10月28日)した11日後の同年11月8日、同社から明清の口座(常陽銀行)に2000万円と4000万円、計6000万円が振り込まれた。

 ②それから11日後の同年11月19日、ピーアンドケー社の口座(常陽銀行)に明治安田生命から約87万円と約1787万円、計1874万円が振り込まれた。

 ③さらに6日後の同年11月25日には、ピーアンドケー社の同じ口座にジブラルタ生命から約8718万円が振り込まれた。廣田氏らが現金化できるものは全てカネに換えようと、急いで生命保険を解約したものとみられる。

 ④この口座から翌26日に2500万円が引き出され(行き先不明)、さらに1億円がピーアンドケー社の別の口座(神田税理士が開設したJA水郷つくば)に振り込まれた。

 ⑤それから4日後の同年11月30日、この1億円のうち3000万円が明清に、3000万円がルシアンホールディングスに振り込まれた。

 買収直後の企業で、短期間のうちにこれだけの大金が抜き取られていた――その事実だけで、ハナから事業再生する気が無かったことが伝わってくる。

 本誌先月号では、廣田氏らに乗っ取られた企業十数社でつくる「被害者の会」を代表して富山県の会社社長のコメントを紹介したが、この社長は前記・東京新聞の記事中に出てくる荒川公一氏だ。

 荒川氏は、首謀者である廣田氏と嘉多山氏が「行方知れずで連絡が取れない」(同)ため、神田税理士に事実関係や入出金の流れを説明するよう要求しているが、神田税理士の代理人弁護士から「ルシアンホールディングスの会計参与を解任されたので答える義務はない」と突っぱねられている。

 荒川氏によると、被害に遭った経営者の中には「これ以上関わりたくない」、「内情を明かすのは恥」と考える人もいるため、37社が一致結束しているわけではないという。荒川氏や福地氏は「廣田氏を絶対に許せない」と警察への情報提供にも積極的だが、「37社のうちの2社は直近まで廣田に面倒を見てもらっていたため、自分の会社が乗っ取られたことに気付いていない」(荒川氏)。

 後継者不在などで生き残りが難しい中小企業に向けて国が推奨するM&Aだが、本来の趣旨とは違う目的で困っている企業を次々と食い荒らす輩を、このまま野放しにしておいていいはずがない。

Tóm tắt
鹿島ガーデンヴィラが事件屋に乗っ取られた問題が報じられ、全国で37社が悪質なM&Aにより経営破綻した。事件屋は中小企業に入り込み、資金を巻き上げる手口を用いており、東京新聞や朝日新聞がその詳細を報じている。被害企業は飲食業や建設業など多岐にわたり、資金繰りが悪化し、給与未払いなどの問題が発生している。