アストルフォの大冒険

contente

 味方に誰もいなくなったら、アストルフォの出番である。そう、今回もやっぱり来ました、アストルフォ。

 大した実力は無いが、人間ばなれした人間に好かれやすいという特質を持っているために、何故か、毎回オイシイとこ取りの男である。

 ヒッポグリフに乗って気ままな旅を楽しんでいた(と、いうか制御出来なくて下りられなかった可能性もある)アストルフォ。たどり着いたのは、アフリカ内部はアビシニア(エチオピア)だった。  アビシニアは金を産出するためとても豊かで、ナイルの水源を持つためエジプトも支配下に置いている。アビシニアの王は、その気になればナイルをせき止めてエジプトに嫌がらせすることも出来るのだった。

 まあ、そんなことすれば自国も水浸しになるはずだが、アビシニアの王はそんな矛盾点など、どーでもいいのだった。

 とにかく、今、アビシニアは非常な危機にあるのだ。  「ハルピュイアという恐ろしいバケモノが襲ってくるのですよ…。」  理由は何だかよく分からないが、王がやらかした不祥事のせいで国に呪いが掛けられ、食事時になると決まってハルピュイアが食器をひっくりかえしに来るため国民はまともに食事も出来ないらしい。(短気なお父さんですか?)  さらに国王は盲目にされてしまっているらしい。(おとなしくエジプトの軍門に下って、トト神に祈ろうよ)  そんなワケで、この国はどこか暗く沈んでいた。歓迎はされたが、人々がそんなドンヨリしているのではちっとも楽しくないアストルフォ。もちろん、困っている人がいたら助けるのが黄門、もとい勇者様のお約束である。

 アストルフォ「なぁに。そんな時にはこの僕にお任せを。」

 王「何をする気だ。あのバケモノに剣は効かぬぞ」

 アストルフォ「ご心配なく。もっと良い武器があるのですよ。」

ぴこぴこーん! ポケットから取り出したのは黄金の角笛~。

 これを聞いた者は、人だろうがバケモノだろうが、恐怖のあまり逃げ出してしまうという恐るべき魔法の品だ!

 アストルフォ「皆! しっかり耳を塞いでいてくれたまぇ? アン・ドゥ~…」

 ブォ~~~~~~  その恐るべき音は宮殿を揺るがし、ハルビュイアの軍勢に恐怖をかきたてた!  恐慌を来たした怪鳥たちは、もはや人様の家のちゃぶ台ひっくり返すどころではなく、大慌てで自分の巣穴に飛び込む。  こうなったらしめたもの。  アストルフォ「とぉうッ」(□ボタン連打)  山の上から岩を転がし、穴を塞いで封印完了!☆  実際戦ってもいないくせに、「いい汗かいたぁ~」とか言いながら、近くの小川へ水浴びに。(伊達男は身だしなみへの気配りが必須です)  と、目の前になにやら、美しい宮殿が。  アストルフォがヒツポグリフにまたがって近づいていくと、一人の老人が出迎えに出てくるではないか。  老人「ようこそ、気高い騎士よ。そなたはシャルルマーニュを助けるため、天の意志によって、この地へ導かれたのじゃ。」 ああ。なんか、またアストルフォが得体の知れないイベントキャラに好かれとる。

 彼を好意的に出迎えるキャラって、魔女だったり妖精だったり翼のある怪しい馬だったり、とかく人間じゃないモノが多いんですよねぇ…。

 つーことは、この人も。  アストルフォ「あなたは、一体?」  老人「わしは、聖ヨハネじゃ」

うむ。ある意味、人間じゃないネ(笑)

 そのあと出てきたのは預言者エリヤと族長エノク。  敬虔なるキリスト教徒の魂の合宿所へヨウコソ、ってことなんだろうが、はっきり言って、ゲームで「伝説の三賢者」とか出てくるのと同じノリだ。こんなにアッサリ出てこられると、有り難味が・・・。  アストルフォ「それにしても、なぜ僕のことを? なぜこの地に導かれたのでしょうか」  聖ヨハネ「うむ。他でもない、あのオルランドゥのことじゃ。神の祝福により力を授けられ、いずれはサムソンのような勇者になるはずだったのに、異教徒のおなごなど追いかけまわしおって、その罰で、今、理性を取り上げられておるのだ。だが、罪の期間は3ヶ月と決まっておる。そこで、おぬしに、もうじき罪のつぐないを終えるオルランドゥの理性を返してやってほしい」  そういやサムソンって、腕っ節は強かったけど女に弱くて、ロクな死に方しなかったよね(ボソリ)  アストルフォ「どうしろと?」  聖ヨハネ「そのためには、まずは月へゆかねばならん」

 アストルフォ「月?!」

 聖ヨハネ「と、いうわけで、わしゃちょっくら月行ってくるから。あとはよろしくな」  預言者エリヤ「はーい。いってらっしゃーい」  何だか分からないままに馬車に乗っけられ、びゅーんと空へひとッ飛びだ。すごいぞルネッサンス。騎士文学がいきなりSFに?!  月面着陸。…そこは楽園、地上から忘れ去られた、ありとあらゆるものが秘められた場所・・・。  そこには、過ぎ去りし記憶すら残されている。そう、過去に自分が犯した失敗や、恥ずかしい子供時代のあーんなことやこーんなこと。さらには××で○○なトップシークレットまで!  なんか月に爆弾仕掛けてフッ飛ばしたいくらいですな。^^;  そんな月面に、「失われた思慮分別」を保存する場所があった。  ビンには人名がラベルで貼り付けられ、中には、失われた理性のぶんだけ、液体が詰まっているのだ。人が、生まれたときに持っていた思慮分別は、たとえば、落とし穴にハマったり、富を求めて冒険したりすると、失われていくのだという。  と、いうことは勇者ほど理性が無いということだろうか…。  大半の人間は、子供の時代に理性をとられてるような気がするぞ…?  アストルフォは、コッソリ自分のびん(半分ほど液体が入っている。)を取り上げて、中身を吸い込んだ。  だがまぁ、人間、生きてる間はいくらでも冒険するもんで、おそらく、ムダであっただろう。  聖ヨハネ「さて。ここにオルランドゥのびんがある。中身はマンパイだ。と、いうことは彼奴は今、理性ゼロの状態になってさすらっているわけだが、この理性を奴めに吸い込ませれば、元にもどる」  アストルフォ「O.K.、了解ですよ聖者殿。ですがどーやってオルランドゥを見つければ?」  聖ヨハネ「運命はすべて神の御心のままに…。これを持って、アビシニアへ戻るがよい」

 ぱらり~ん♪(アイテム:すごい薬草Lv.3)←ゲームネタです。本当にこういうのくれたわけでは・・・

 聖ヨハネ「この薬草があれば、神の怒りによって盲目にされたアビシニア王の病は治るであろう。王はそなたに感謝するはずじゃ。そしたらお礼として、10万のアフリカ軍を借りるがよい。その兵を使って、アグラマンのアフリカ軍を背後から攻め立てるのじゃ。」  キリスト教徒側が不利だからって、もうこの世にはいない聖者が手を貸すのである。

 はっきり言ってズルなのだが。

 アストルフォは言われたとおり薬草を持って地上に戻り、アビシニア王の目を治してやり、お礼に10万の兵を借り受けた。  現在フランスに侵攻中のアグラマン軍は、アフリカからフランス、つまり地中海渡って向こう側へ攻めている。アビシニアはアフリカ内部の国だから、その軍を背後から挟み撃ちにしているのと同じことだ。

 アストルフォ「さぁ~、僕の出番さ。華麗なる僕の活躍を見たまえ~」

 まぁ今まで、あまりにもほっぽらかしすぎだからね。多少は危機回避に貢献してもらわないと。  10万の軍を率いて、地中海からヨーロッパへと渡る海岸まだやって来た、アストルフォ、そこで出会ったのはロドモンに捕らえられた、フランスの仲間たち。  あの、橋の上で通りすがりの騎士の鎧兜を剥いで弁慶状態だったロドモンである。  ロドモンが捕らえた騎士たちは、捕虜としてアフリカへ送られる途中だった。ちょうど捕虜を満載して港についてところに、アストルフォが陣を張ってたのである。  飛んで火に入る捕虜運搬船。  アストルフォの指パッチン一つで船は差し押さえられ、中にとっ捕まっていたフロリマールやオリヴィエ、さらにドゥドン(カタイまでフランスの騎士を迎えに来てた、あの人)が開放された。  ドゥドン「助けてもらって、かたじけない…。」  アストルフォ「いいのさ~My フレンド。困ったときはお互い様さ~?」  遠くの声「うお~~」  フロリマール「しかし残念です。オルランドゥ殿を見つけられなかったばかりか、このような辱めも受けるとは。」  アストルフォ「奇遇だね? 僕も彼を探しているのさ。ウワサでは理性を失ってウロついているらしいけど、何所にいるのだろうね」

 遠くの声「うお~~」

 オリヴィエ「行方不明になってから、そろそろ三月になる。フられて辛かったからと言っても、いい加減、(正気に)戻ってもらいたいもんだが…」  アストルフォ「ふふふ、そのために僕がここにいるのさ♪」

 だんだん近く**「うお~~~~」**

 フロリマール「・・・あのう・・・さっきから気になってたんですけど、この声なんでしょう」  アストルフォ「ん?」

 振り返るとそこに、すっぱだかのオルランドゥが「うおおおーーー! うおおおおーーーー」

 騎士たち「!!!!」  いるじゃん、そこに!  しかも海ざんぶら掻き分けて、陸に向かって突進してくる大男。薄汚れてはいるが、それは紛れもなくオルランドゥ。  岸に着くなり、いきなり目の前に兵士たちをぶん殴り、キングコングのごとく陣営に攻め寄せてきた!  フロリマール「ど、ドーバー海峡横断部…? すごい。地中海を泳ぎきったのはこの人は。さすが…」  オリヴィエ「とか、感心してる場合じゃないぞ! まっすぐこっちに突っ込んでくる。味方の顔も分かってないらしいなッ」  オルランドゥ「うーおー~~ 食い物よーこせー!」

 アストルフォ**「!」**

 オルランドゥの右手がうなる! 拳が頬に熱く撃ち込まれる…

 アストルフォ「あ、ああ…、星が…見える…vv」

 ドゥドン「アストルフォ殿ォ! …ぬう、おのれオルランドゥ。自分のいとこも分からんのか!」  オリヴィエ「いや、もしかしてワザとだったかも。自分よりアンジェリカ姫に好かれててムカつくって言ってたし」  フロリマール「理性が無いぶん、過去の因縁をストレートに晴らせるってワケですね…」  ドゥドン「感心してる場合ではなくッ。ここは皆で力を併せて!」  オリヴィエ「仕方が無い…」 さすがに剣を使うわけにはいかず、彼らは一気にオルランドゥにとびかかった。引っかかれたり噛まれたりしながらも、羽交い絞めにして地面に押さえつける。  オリヴィエ「アストルフォ! 今だッ」  アストルフォが、月面から持ち帰った理性のびんをオルランドゥの鼻にぐいと押し当たる。  オルランドゥ「フガッ、ガフガフッ」  フロリマール「もう少しです! じっとしていて下さいッ」  オルランドゥ「フガッ…、ゴフッ?! …え?」  ドゥドン「おお! 何か正気に返ったっぽいですぞ!」  正気に返ったオルランドゥは、すっぱだかのドロまみれで砂浜に転がっている自分の姿に、しばし呆然としていた。  それから、周りにいるのがよく知った顔ばかりなのにも驚いていた。  オルランドゥ「…オレって何でここにいるんだっけ。」  一同「いやァ~、それはー…」  いえるはずも無かった。  かくてオルランドゥも戻り、主な騎士たちも戻ってきて、ようやく、物語は本題(シャルルマーニュ軍vs.アグラマン軍)へ。  長すぎた寄り道のすえに、各々キャラの向かうべき道が決まろうとしていた。


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 この時点で、主要キャラのほとんどが私事のため出払ってしまっている。もしくは、戦争とは全然関係ないところで行動不能になっている。  フランス陣営で残っているのは、リナルドと弟たちくらいだ。  君たち。もっとマジメに戦争しようよ…。  リナルド「くそ。誰もいないし。そもそもこの戦いは何で始まったんだっけ!」  リッチャルデット「アフリカの王アグラマンが、何だか知らないけどウチの王を気に入らないからって攻めてきたんじゃないですか。」  リナルド「そうだっけ?! ああー、なんかもう、そもそもどうしてアフリカの軍にヘクトルの子孫とか中国人(グラダッソ)とかいるんだよ! オレたちは一体何と戦ってるんだ、なあ?」  リッチャルデット「そんなこと僕にいわれても分かりませんよ…とにかく戦わないとまずいんですから…」  アラルド(弟その2)「どうします? ブラダマンテ探しに行きますか?」

 リナルド「いや。いい。多分、今までのパターンからして、いなくなった奴を探しに行くと二次遭難になる危険性が高い。」

そう。探しに行ったら帰ってこない。これがお約束。  物語の登場率を上げるためには、何が何でも事件に巻き込まれなければならないため、騎士出歩けば事件に当たる、とでもいうべきか、まず無事には帰ってこられないのであった…。  だが出歩かなくてもイベントは向こうからってくるもの。  マンドリカルドが死に、ロジェロが瀕死の重傷を負って倒れた今、名剣ドゥリンダナはグラダッソの手にある。かつてグラダッソは、名剣ドゥリンダナと名馬バヤール欲しさに、は~るばる中国から戦いを挑んできた男である。(そもそも、この人、一国の王のくせに、まだ国に帰らずウロウロしてるってのがすごいよね)  求めるものの片方が手に入れば、残るもう片方を求めるは必定。

 かくて、男はリナルドに一騎打ちを挑んだ。このクソ忙しいのに 騎士の誇りと名誉をかけた戦いを挑まれては退くことあたわず、いざ、尋常に正々堂々の勝負!

 と、いうわけで、一騎打ちも騎士の仕事のうちなので、リナルドは、以前マラジジのお陰でおあずけになっていたグラダッソとの勝負にケリをつけるために出かけていった。戦いは苛烈を極め、真剣勝負は何時間にも及んだ。グラダッソの持つオルランドゥの剣の恐ろしさは、当然リナルドも知っている。  鉄をも切り裂くその名剣、当たったら負けだ!

 だが、当たらなかったら恐るるに足らず。

 グラダッソ「くッ…なぜだ、何故、私の剣が…」  リナルド「ふははは。貴様の攻撃など、ハエが止まって見えるわ!!」 鎧つけたまま身軽にひょぃひょぃ避けてるリナルド君を想像すると、何だか笑ってしまうのはオレだけだろーか。  そうして戦いがかなりの時間に及んだときだった。  鋭い馬のいななきで振り返った二人は、木につないでおいたバヤールが、何か得たいの知れないバケモノに襲われているのを見た!  「な、なんだありゃ?!」 何だったかはわからない。それは作者にも分からなかったらしい。  とにかくバケモノだった。鳥のような…、翼の生えた生き物である。  バヤールはびっくりして、その自慢の駿足で逃げ出してしまった。  リナルド「ああ! こら、待てっ」  グラダッソ「チ…、賞品が逃げては、戦いはおあずけだな。ここはひとまず休戦だ!」 戦っていた男たちは、剣を収めて馬を追っかける。もちろんこの決闘は、どちらの騎士が名馬バヤールを手に入れるかを争っているものなんだから、バヤールがいなきゃ始まらない。バヤールをなだめて回収してきたら、また戦いが始まる、はずだった。  ところが――。  運のいたずらか、バヤールを先に見つけたのはグラダッソ。それまで、もとめて手に入らず、フランスに侵攻して失敗していた類稀なる名馬が目の前に。  彼の胸に、悪がささやいた。  「このまま、バッくれちゃえ。」 ちなみにバッくれるとは、若者用語で「ごまかして逃げる」という意味です、お父さん。  そんなこととは露知らぬリナルド。  セリカンが船に乗って帰国してしまったことを知ったときには、あとのまつり。友人の剣と自分の馬は、はるか彼方の海上にあったのだった…。  ※シャルルマーニュ伝説の法則 ―騎士道に正しく振舞った人ほど理不尽なメに遭う  さて、その頃、ブラダマンテはロジェロのいる陣営を目指していた。  乗っている馬はアストルフォが置いていったラビカン、手にしているのはアストルフォの置いていった魔法の槍。どちらも元はアンジェリカの弟・アルガリアの所持品だったものである。  てくぽく馬で進んでいると、彼女の前に涙にくれる貴婦人が。  「あら、フロルドリ? お久しぶりね。こんなところで何をしているの」  「ああ、騎士様!」 …フロリマールとフロルドリはいちどフランスに戻っているので、オルランドゥ以外のフランスの騎士たちとも面識があるような気がするのだが、ブラダマンテとも知り合いだったかどうかは定かではない。(もしかしたら全然知り合いじゃなかった可能性も…)  ま、鎧見れば味方かどうかの判別くらいはつくだろうし。  フロリマールは懇願した、この先の橋に立つ騎士が捕らえている、自分の夫を解放してください、と。これまでの経緯も話した。本当は、狂ったオルランドゥを助けに行くつもりだったんだけど…。  「オルランドゥがねぇ。(リナルドのいとこ、ということは、彼女にとってもオルランドゥはいとこに当たる) …ったく、あの男はひとに迷惑ばかりかけているな。まあ、いいだろう。どのみち橋は通らねばならんし、私も、そのテの男は大嫌いだ」  「ありがとうございます!」 ブラダマンテは槍を構えて堂々と橋に差し掛かった。待ち構えていたロドモンがかかってくる。  「わしが殺した婦人の墓にそなえる馬と鎧を寄越せ。」  「愚か者が、自分の罪は自分で償え! 貴様の鎧兜こそ、唯一にして最も献花に相応しいものよ」

 一撃必殺。

 アストルフォから預かっている魔法の槍があるので、ロドモンはもんどりうって馬から転げ落ちた。  「ぐ・・・、ぐはッ?! ばかな、この、わしが…」 振り返ると、そこには金髪美女が。  「どう? 女に負けた気分は。これに懲りたら、二度と他人に罪の肩代わりをさせないことね。」  「………。」 ロドモンは観念した。

 自分は負けた…。そう、本当は、誰かにコテンパンに打ち負かしてもらいたかったのかもしれない。自分で自分を罰することができなかった臆病者は、誰かに叱ってもらいたかったのだ。
 手に入らなかった恋のことは、諦めよう。
 過去よりも今、鮮やかに、目の前に輝く強き手の美女がいる。女たちは、本当は男よりも強い者なのだ。(ナレーション字幕)

 「わしの、負けだ。捕虜はすべて開放しよう…さらば!!」 涙をこらえロドモンは去っていった。  だが、そのときすでに、フロリマールを含む捕虜たちは遠くアフリカに送られていたのだった。日本でいったらロシヤ送りくらいキッツいですよ、奥さん。開放されても、帰ってくるのにものすごく時間がかかるんじゃぁ…。  「ありがとうございました。」  「いえ、大したことではないわ。あとは夫が無事に帰ってくることを祈るしかないわね。」  「はい…」  「じゃ、頑張って。あなたなら大丈夫よ。」 ブラダマンテは、馬にまたがってその場を後にした。  旅は続き、ロジェロが看病されている陣営の近くまで来たとき、彼女は求めていた、噂の真相を知ることが出来た。ロジェロの看護をしていた美女マルフィサは彼の妹であること。怪我は既に治りつつあること。  ほっとすると同時に、彼女は、この旅をしてよかったと思ったのであった。

 ―――本国は、それどころじゃないのだが…。

 まあ、本人が良いと言っているのだから、取りあえずは…めでたし・めでたし?^^;


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 さてその頃、おフランスでは…  リナルド「誰も帰ってこないし!! 今、戦争中だぞ?! 分かってんのかーッ」  リッチャルデット「兄上…おちついて…。」  恋路に破れたオルランドゥは発狂し、巻き込まれたゼルビノは敢え無く落命、フロリマールは捕虜になり、  リナルド「だいたいテメェがきちんと首に縄つけとかないからだ!」 と、オルランドゥの親友、オリヴィエに八つ当たり。  オリヴィエ「すいません…。探しに行って来ます…。」 で、出発したもんの、これまたオリヴィエも帰ってこないときたもんだ。そう、オルランドゥを見失った橋のたもとで、ロドモンにとっ捕まってしまっていたのだ。  アストルフォはグリフィンを手に入れてどっか行っちゃったし、ブラダマンテは戻ってきたもんのロジェロのことを考えて上の空。

 言ってみるなら故障者続出で主力を欠いたプロ野球チームくらい、見てて切ない惨状なのである。

 Bクラス落ちどころか、**首都が落ちそうだ。**カンバ! リナルド★  そんなこんなでイッパイイッパイの状況のため、リナルドは気が付いていなかった…。  妹・ブラダマンテが何か悩んでいるらしいことに。そう、彼女は今、恋の悩みに胸をいためていたのだった。他でもない、ロジェロのこと。  キリスト教徒に改宗して、結婚を申し込んでくれると言ったはいいものの、二人して教会に向かう途中、マンドリカルドに邪魔されてしまった、あの日いらい、ロジェロからの知らせは来ない。  あの言葉にウソ偽りは無かったはずなのに。  ああ、ロジェロ様。遠いあの人は今何所に。  実はロジェロには、ブラダマンテに会いに来られない理由があった。  大怪我して動けなかったのである。なんで大怪我したかって? そりゃ勿論、決闘したからである。  オルランドゥが投げ捨てて行った名剣ドゥリンダナを手に入れたマンドリカルドと、ヘクトル直系の子孫であり、ヘクトルの盾を持つロジェロのふたり。  さらに、この二人のもとに、ヘクトルの鎧に選ばれし勇者・セリカン王グラダッソも登場。三つ巴ふたたび。  ロトの紋章のように3つに分けて持てるとか、そういう便利な機能はなく、あくまで装備品は一人で全部そろえなくてはならなかった。(笑)  今度は言い争いを止めてくれる通行人も無く、3人は、アグラマン王が「えー加減にせんかい!」と怒鳴りつけるまで延々言い合いを続けたのである…。  既に忘れられているかもしれないが、アグラマンは、たったいまフランス攻め真っ最中の、敵軍の将である。

 フランス側も主力を欠いてるが、アフリカ側だって内部分裂で身内が牽制しあっている、と。まさしく、泥沼状態の日本シリーズ ヨーロッパ・アフリカ総力戦。

 三人いるので、くじ引きでトーナメントすることになり、まず当たったのがロジェロとマンドリカルドだった。  戦いの内容は省くが(と、いうか実際に詳細不明)、負けたのはマンドリカルドだった。マンドリカルドは死んだが、ロジェロも重傷を負った。  かくてグラダッソは死んだマンドリカルドから剣を手に入れたが、それは実際のところロジェロの手柄だった。  そんなわけで、ロジェロは生死の境をさまよっていた。だがそんな時、彼の側に現れて、献身的に介護していた美女がいたのだ。どこか自分によく似たその美女…忘れかけていた面影。何と、それは、生き別れになっていた、ロジェロの双子の妹・マルフィサだったのだ!  彼女はかつて、ロジェロとともに魔法使いアトラントのもとで暮らしていたが、誘拐され、アラビア人首長の養女として育てられていた。  アトラントはちゃんと回収しなかったらしい。何しろヘンタイ魔法使いなので、少年にしか興味がな…げふん。いや、まあ、そんなことはいいとして。  偶然の兄との再開を喜び、親しく接するマルフィサ。だがそれは、事情を知らない人々からすれば、年頃の男女がイイ仲になっているように見えてしまったのだ。(誤解デス)  ロジェロが来るのを心待ちにしていたブラダマンテが聞いたのは、まさしく、この噂だった。  恋人のことは信じている、何かの間違いに違いない…だが、もしも?!  いてもたってもいられなくなったブラダマンテは、戦場ほっぽりだして敵陣へと向かう。一軍を預かる身、しかもモンタルバンの城を管理している責任者でありながら、軍と城をほっぽのだして恋路に走る乙女心♪  喩えるなら支店長が決算時期の支店をほっぽりだして遠距離恋愛の恋人に会いに行っちゃったよーなモンです(笑)  リナルド「あいつもかーー!(怒)」  リッチャルデット「兄上、落ち着いてください。血圧上がりますよ」 フランス軍、もうめちゃくちゃ。誰かこいつらを止めてやってくれ…。


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 ロドモンって誰さ? …って、もう遥か昔のことのように思ってしまうが、そもそも、アフリカの軍勢が攻めてきた最初の合戦を思い出してほしい。

 あの、リナルドに馬から突き落とされてダッシュで逃げた、アルジェリア王ロドモン陛下ですよ。  思い出した? リナルドとロジェロが出会うちょっと前のことね。  で、そのあと、軍の指揮官アグラマンとケンカして軍を離脱して、引き上げてくるところだったのだ。

 相変わらず、この物語の登場人物たちは超身勝手。^^;

 イサベラは、死んだ恋人・ゼルビノのそばで嘆き悲しみ、通りかかった僧侶に助けてもらって、葬ろうとしていた。彼女は、恋人に献身を捧げ、一生祈って暮らすつもりだったのだ。  だがそこへ、いらんことしぃのロドモンが通りかかる。  「恋人が死んだ、だと? ふん、死んだ奴のことなど忘れてしまえ。いや、俺が忘れさせてやろう。恋人の代わりに、俺がたっぷり可愛がってやるよ…うぇっへっへっ…」  いや待て。  アンタそれ、騎士文学ではNGでないの?

 「あーれぇー」

 「お、おやめください騎士殿。神の道に入ろうというご婦人に乱暴なさるとは、正気の沙汰ではございませんぞ」  「やかぁしい。俺様を誰だと思ってやがる。邪魔立てしやがるなら坊主、貴様も容赦しねぇからな」 狼藉者と化したロドモン、僧侶の胸倉つかんで海にブチ込み、溺死させてしまう。  そして、恐怖におののくイサベラを、不謹慎にもチャペルに連れ込んで無理やりモノにしようとしたのだ。

 いやぁ~、黄門様ー!

 だが残念なことに、ルネッサンス文学に便利な黄門様はいない。どうするイサベラ。このままだとロドモンの嫁にされてしまうぞ?!  「殿…、お願いです、わたくしを離してくださいませ。もしもわたくしを自由にしてくださるなら、素晴らしいものを差し上げますから。わたくしは、ある秘薬の作りかたを心得ているのです。その薬を塗れば、体はどんな剣も通さぬ鋼鉄に変わります。さあ、お見せしましょう。わたくしを離してくださいませ」  塗れば体が鋼鉄に、って。「竜殺しのシグルド」ですか。竜の血ですか(笑)  そんな話信じてるロドモンもお間抜けさんだが、そんな話を思いついたイサベラもスゴイな…。  ワインを飲んでぐでんぐでんに酔っ払っているロドモンの側で、イサベラはせっせと、自らの死を招く儀式の準備を始めた。  怪しげな薬草を煮込み、呪文をとなえるふりをして、ロドモンが正気を失ったころを見計らって、さあ出来ました、わたくしが試してみますから、と言って、薬を自らの首にぬりつけ、ここを剣で打ってみろ…と、言ったのである。  ヨッパライに正常な判断能力は無い。  ロドモンはよっこらしょっと立ち上がり、じゃーやってみるか、とイサベラの首めがけて剣を打ちおろしたのである。  結論から言えば、体が鋼のようになる薬なんか実在しないので、イサベラの首は体から離れてコロリと落ちた…。

 「……。 …えっ?」

 えっ、じゃねーよ、アンタ。  そんな薬あるんなら、最初っから恋人のゼルビノに塗ってたろ^^;  「お、俺は…、俺はなんてことを…。」 異教徒とはいえ、チャペルで無防備なご婦人殺害ってのも、かーなり罪深いよね。  どんな悪党にも良心のかけらはあるというもので、この悲劇を目の当たりにしたロドモンは、付近の大工をかき集め、チャペルのあった場所に、イサベラとゼルビノを祀る塔を建てさせた。そして近くを流れる川に狭い橋をかけさせて、ここを通る騎士たちから戦利品を奪い、二人の供養としよう、と考えたのであった。  前半の発想は、実にいいことだと思うんだけどね。

** 後半は間違ってるよ。**

 「俺は心に決めた。ここを通る一千人の騎士たちから装備を奪い、積み上げるまでは、俺の懺悔は終わらないのだと。一千組の鎧兜を、あの塔に積み上げるのだ。」  ロドモン弁慶、槍を手に狭い橋の上に立つ。かくて通りすがった騎士たちは、片っ端から装備をはがれ、川の中に突き落とされることとあいなったのであった。

 どこまでもハタ迷惑な男である。

 そんなロドモンだったがただ一人、止めることが出来なかった者がいた。他でもない、オルランドゥだ。  しかし、あまりにも変わり果て、野生の獣のようになっていたオルランドゥを見ても、ロドモンはそれが誰だか分からなかった。  狂ったように突進し、ロドモンもろとも川にダイブしたオルランドゥの行方は、杳として知れず。…それを見ていたのは、乙女フロルドリであった。  「あ、あれは、オルランドゥ様…?」  フロルドリは、ちょうど恋人フロリマールのあとを追いかけてフランスへ戻るところだった。こちらも、イサベラ・ゼルビノと同じく、オルランドゥが旅のよしみで恋路の手助けをしたカップルである。  その彼女が恩人のオルランドゥを見誤るはずも無く、どんなに変わり果てていても、分かるものは分かるのだった。  フロルドリは、すぐさま、パリで待っていた恋人にこのことを伝えた。  「いったい何があったのでしょう、オルランドゥ様があんなふうになってしまわれるなんて」  「分からない。だが、恩人をこのまま放っておくわけにもいくまい」

オルランドゥに助けられたカップルは、悉くオルランドゥのせいで苦労するというジンクスがある。

 川に落ちたオルランドゥを探しに行ったフロリマールは、途中、ロドモンに見つかって、あえなく捕虜にされてしまうのであった…。  つくづくハタ迷惑な男だよな、オルランドゥ^^;


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 あんな酷い女でも、本気でホレた男はいたもんだ。  何を隠そう、いや今さら隠してもしょうがない…、我らがオルランドゥ氏である。  激しく美女を取り合ったリナルドのほうは、わりとアッサリ諦めて国を守る仕事に戻ってンのに、こっちはアンジェリカ探して、本国の危機にも帰らずじまい^^; 悲しみを表す黒い鎧に身を包み、今日もあちこちさすらっていた。

 ほとんどストーカーじゃん。アンタ。

 途中、持ち前の独断と偏見により他人様(イサベラ&ゼルビノ)の素敵な恋路を助けてみたりなんかして、国に戻る気なんか全然ナッシングなところを見せ付けていた彼だったが、実はもう一人…、国のこと全く忘れて、わが道を独走していた男がいたのだった。  マンドリカルドである。

 思い出すだに果てしなく…、そう、あれは確か、ロジェロとマンドリカルドとグラダッソが始めて出会った、三つ巴の時。

 そのあと、皆あっちこっち行方不明になっちゃって、話が立ち消えになってたっけ。  まだしつこくオルランドゥを探してたらしいよ、この人は。  「オレと勝負しろ!」  マンドリカルドはいきなり挑戦してきた。だが、オルランドゥは鎧に紋章もつけず、普段と違う格好をしているため、オルランドゥだとは分からない。  「オレの名はマンドリカルド。親父を殺した卑怯者のオルランドゥを探して旅をしている。オレは奴から、名剣ドゥリンダナを取り戻すまで剣を帯びないという誓いを立てているのだッ!」  「なんだと?! 貴様、誰が卑怯者だと言うんだ」  一目会ったその日から、憎しみの花咲くこともある…。  「なんと。そんな格好しているから分からなかったが、お前がオルランドゥか。丁度いい、貴様を倒し、名声とともに剣も手に入れてくれるわ!」  「ふん、剣も持たない相手に本気を出すまでもないわ。こちらも剣はいらぬ、かかってこい!」 あーあ、大人気ない…。  マンドリカルドが剣を持っていないからといって、オルランドゥは自分の剣を近くの木にかけ、槍を手に持った。

 槍でぶつかりあえば槍が折れるのは必定、かくて名の在る騎士たる男たちは、棍棒で殴りあうハメに。

 …なんかさあ、子供のケンカだよね^^;  もう、体裁も騎士道も関係なし。野生に任せ、あまりにも激しくやりすぎちゃって、馬具が壊れて、馬が暴走してエライことに。  マンドリカルド「うわーーー」←馬が止まらない  オルランドゥ「こら! 逃げるのか?! 待て!」

 逃げてるのはマンドリカルドじゃなくてです、馬。

 しばし待ってみるも、マンドリカルドは帰って来ず。しょうがないのでオルランドゥ、木にひっかけておいた剣を腰につけ、自分から、マンドリカルドの後を追いかけてみることにした。だが、馬のあしあとはあまりに混乱していて、追いかけても追いかけても、マンドリカルドが見つからない。  疲れてきたので涼しげな木陰に入って休もうとした、その時だった。  …木に、メドロ♥アンジェリカ …とか、あいあい傘が描かれていたのですよ。びっくりだね。  しかも側の洞窟の中に、メドロの書き残した「タナボタラッキー。美人な王女と結婚できちゃった。逆玉の輿~」なんていう喜びの詩も残されていたりして。  オルランドゥ「なんじゃこりゃ…。い、いや、このアンジェリカは、オレの知ってるアンジェリカではあるまい。まさかそんな。そんなまさか」  よろよろしながら木陰を出て、近くの農家を訪ねたオルランドゥだったが、そこでも、さらに酷い現実が待ち構えていた。  なんと…そこはアンジェリカがメドロをかくまい、看病した農家だったのである。  証拠の品として、アンジェリカが農家に与えたお礼の腕輪が残されていた。  だが、それは、かつてオルランドゥが、愛の証にとアンジェリカに与えたものだったのである…。

 「NO---!」(号泣)

 ひでェ。ひでェやアンジェリカ。  ある男からの真心のプレゼントを、他の男との結婚資金に使いますか…。  血涙を流すオルランドゥ。目の前に絶対的な証拠を突きつけられ、恋焦がれてきた思い人が、見た覚えもない男と結婚してしまったことを知らされたのだ。まぁ、ムリもない。  「オルランドゥは死んだ!!」とか、どっかの哲学者みたいなことを叫びながら表へ駆け出し、あの、アンジェリカとメドロのノロケが刻まれた木陰をめちゃめちゃに破壊しつくした後、あえぎながらバッタリ倒れ、そのまま正気を失ってしまったのであった。  かくてオルランドゥ、女性問題にて発狂せり。  騎士としての誇りも品格も失い、ただの野生となり果てて、野山を荒らしまわり、人の言葉も知恵も忘れて、クマやオオカミと素手で戦うようになってしまった。  哀れ・・・・。  オルランドゥの帰りを待っていた、イサベラとゼルビノは、戻りが遅いし何だか嫌な予感もするので追いかけていって、その惨状を見た。  鎧はバラバラ、剣は鞘にも入らず地面に放り出され、騎馬ブリリアドロはひとりさまよっている。  もしかしてオルランドゥは殺されたのか? …だが、それにしては鎧に血はついていない。  よくよく見ると、破壊された木と洞窟に、アンジェリカの名前が見て取れるではないか。  オルランドゥから、いとしのアンジェリカの話はイヤってほど聞かされていたイサベラとゼルビノは、だいだいの事情は飲み込めた。  恋が叶わなかったと知って、キレちゃったんだな…。  と、そこへタイミング悪くマンドリカルドが戻ってきてしまった!  遅いよ、アンタ!  「ふん、オルランドゥがいなくなった、だと? 知るか。どうせオレと戦うのが怖くなって、わざと狂ったフリでもしたんだろう。その剣はもともとオレのものだ。奴がいないなら、奪っていく」  「そうはさせるか!」 自分の恋路を手伝ってもらった恩義のあるゼルビノは、オルランドゥの剣ドゥリンダナを守ろうとする。だが、腐ってもマンドリカルド、強さは人一倍。  マンドリカルドの手に渡ったドゥリンダナの一撃をくらって、ゼルビノは致命傷を負ってしまった。  あわれ、オルランドゥのおかげで結ばれたカップルだったが、オルランドゥのせいで結局引き裂かれてしまうハメに。(ハタ迷惑な男だよな…)  マンドリカルドは戦利品を手に悠々と立ち去り、ひとり取り残されたイサベラは、悲嘆にくれるのであった。

[全く関係ない他人にまで迷惑をかけだすと、始末に終えないよね…]


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・オルランドゥ⇒帰国命令を無視して今もアンジェリカを追っかけている。 ・アストルフォ⇒リナルドと一緒に帰国途中、止せばいいのに魔女にちょっかい出して攫われる。 ・ブラダマンテ⇒ロジェロを探して戦線離脱。 ・ロジェロ(敵)⇒リナルドとの手合わせの途中でいなくなったかと思ったら、リナルドの妹とフォーリン・ラヴ。  主要キャラが皆して出払っていた、その頃…

 リナルドだけは、シャルルマーニュの命令を優先して必死で本国フランスを守っていた。

 「うおお! 異教徒どもめ!(オルランドゥの馬鹿! 役立たず! 二度と戻ってくんじゃねェ!)」 サラセン人を片っ端からぶっ倒していくリナルドの姿は、悪魔か鬼のようであったという…。

 ま、八つ当たりですが(笑)

 「くそ、あいつら~…オレ1人にしやがって。何でオレ1人!!」  オリエヴィエ「いや、一人って私もいますが」  オジエ「…わしは?」 オルランドゥにおいてけぼり食らった歯止め役オリヴィエ&恋愛ネタに絡めないデンマーク人オジエ、やたら影薄い(笑)  12勇士というからには、もちろん他にもいるンですが、実際、話にはあまり出てこなかったり。  リナルドは、めっちゃ機嫌が悪かった。(それも仕方がない…)  彼の不機嫌な剣の前に、サラセン人の部隊は皆、恐れをなして逃げて行った。そんな中。  一人だけ、無謀な若者が立ち止まり、リナルドに挑戦したのだった。

 手にした盾の紋章は――赤と白の四分塗りわけ。そう、オルランドゥの紋章と同じだったのである。

 戦場では、鎧でフル装備していると顔も体格もほとんど分からず、紋章は個人を識別する、ほぼ唯一の指標だ。もちろん敵軍にオルランドゥがいるわけないので、たまたま同じ紋章をつけた別人なのだが、リナルドには今、ちょうど腹をたててる最中のオルランドゥに見えたことだろう。  「貴様が誰だかは知らないが、その紋章をつけるとは命知らずな。貴様のような奴は早めに死んでもらうに限る!」

 どしゅっ

 …一瞬でざっくり殺されてしまった若者の名は、ダルディネルといった。  ズマラの王子で、まぁそれなりに強かったらしい。しかし、その勇敢なダルディネルさえあっさり倒されるのを見て、異教徒の皆さんは恐慌に陥った^^; 怖いよ、リナルド君…。  必死で逃げるムーア人。王マルシリウスは何とか敗残兵を集め、その夜は震えながら眠りについたという。  「主力の騎士が居ないのに、なんで負けてるんだ、おれたちは…。」 それはね。勝利のカギを握るはずのロジェロが戻ってないからだよ。そっちも主力いないから(笑)  夜中も少し過ぎた頃のことだった。サラセン人の陣地で、小さな動きが起こった。クロリダンとメドロ、ふたりの若者がむっくり起き上がり、危険をともなう戦場へ戻ろうと相談しはじめたのだ。  彼らは、死んだ王子ダルディネルの従者だった。クロリダンは弓の名手で狩人だったが、メドロはろくに戦うこともできない、ぽっちゃりふっくらの若者だ。そして王子に、少し憧れも抱いていたらしい。  「ねえクロリダン、王子様が何も無いさびしい草原に投げ捨てられて、獣たちについばまれているなんて、僕耐えられないよ。なんとかして、助けてあげようよ。せめて遺体を探し出し、葬って差し上げよう?」 クロリダンは、驚きつつそれをもっともだと思った。そして心底思った。「こいつ、いいヤツだなぁ」と。

 二人は、見張りの義務をすっぽかして、真夜中の敵陣へと乗り込んで行った。

 夜とはいえ、敵陣に乗り込むことは危険でいっぱい。

 メドロはさっそく、昼間の戦場でいとしの王子を探し始めるが、クロリダンはわりとどうでもよかったらしく、手伝いもせずにフイ打ちで寝ているフランス軍の兵の首を討ち始める。とにかくチャンスがあったら殺しとけ。ある意味、漢である。

 ともかくも二人は、目指す王子の遺体を見つけた。  だが運悪くそこへ、敗残兵を追いかけて行っていたゼルビノが戻ってきたのだ。ああ! もう、クロリダン! アンタが余計なことしてなきゃ、もっと早く逃げられたろ?!  …ってなのは、言っても今さら仕方が無いんだが。  「む、曲者?!」  ゼルビノ配下の兵が剣を抜く。おどろいたクロリダンは、荷物(ダルディネルの遺体)を放り出して素早く「逃げる」コマンド発動!  だがしかし。メドロは逃げていなかった…!  「王子様のご遺体を見捨てて逃げられるもんかー!」  ああ。心底イイヤツ系だ、メドロ。  自分だけ我を忘れて逃げたクロリダンは赤っ恥。おれは一体、なんてことを?!(※裏切りというコトです)  茂みの中から矢を番え、逃げるメドロを援護しようとするクロリダン…だがメドロは、ゼルビノの制止に耳を貸さなかった部下によって、一瞬のうちに瀕死の重傷を負う。それを見たクロリダンはキレてしまい、もはや自分の命もなんとも思わない狂戦士と貸した。  突っ込むクロリダン。討ち死にするクロリダン。(早ッ)  まだ息のある親友メドロの傍らに伏したクロリダンの体…さらば友よ、君のことはきっと忘れない…。  侵入した若い異教徒たちが倒れたのを見届けて、ゼルビノは去って行った。まだ僅かに息の在るメドロも、このままでは死んでしまうはずだった。  だが、運命のいたずらによって、その様子を、たまたま物陰から隠れて見ていた人物がいたのだ。

 アンジェリカだった。

 おいおい! 何でこんなところにいるんだアンタは!  しかも農民の娘の仮装して?!  魔法の指輪を取り戻し、再び変身でき…いや、姿も消せるマジカル・プリンセスへと戻れたアンジェリカは、今や元の傲慢でプライドの高い王女だった。(健気に涙流しながら助けを求めてきた乙女とは違うのデスヨ…。)  リナルド、オルランドゥ、サクリパン、その他大勢の地位と名誉ある男たちを袖にふり、利用しつくして来た彼女。苦難を越えるごとに自信は高まり、もはや、ありきたりの男とは結婚する気がなくなっていた。  …それが、何故か!  主人の遺体を必死で守ろうとしてあえなく倒れたメドロに、胸ときめかせてしまったのである。

 女って謎ですね。

 アンジェリカは、負傷したメドロを近くの農家に連れ込みかくまった。彼女の献身的な看護と怪しい漢方薬によって命を救われたメドロは、当然のようにこの絶世の美女の口説きに落ち、国も故郷も捨てて、ともに、遥か東方はカタイの国へと、旅立つことになったのであった…。

[さようならアンジェリカ。だけど、誰か忘れていないか…?]


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■シャルルマーニュ伝説 -The Legends of Charlemagne

つっこみルネッサンス

 その時、本物のブラダマンテは、本国にてマルセイユの市長 兼 要塞司令官を勤めていた。そう、フランス軍はまだ交戦中。今は戦力にもならない連中を助けに行ってるヒマはない。  今頃ロジェロは助かったかしら、と気をもみながら待っていたブラダマンテのもとに、メリッサが現れた。  「で、どうでしたかメリッサ様!」  「アルシナのほうはうまくいったわ。彼は一時的にせよ自由を手に入れた。ただ…」  「ただ?」 メリッサは、溜息をつきながら言った。  「どうやら、魔法使いアトラントは、まだ彼のことを諦めていなかったみたいね。」  「!何ですって・・・」

アトラントはまだ生きていた。そしてロジェロを奪い返すべく、日々、フランスの勇士たちをたぶらかしては自分の城に閉じ込めるという、陰険な嫌がらせを繰り返していたのだった。

 メリッサは助言する。  「魔法使いは幻によって、それを見る者にとって最も愛しい者の姿に変わっている。けれど目くらましに騙されてはいけません。あなたはロジェロの姿を見るでしょうが、それは本物のロジェロではないのです。迷わず、彼の体に剣を突き立てなさい。いいですね」  「は、はい…」 でも、ンなこと言ってても、覚えてるわけないんだよね、この物語の人たちって(笑  魔法使いの城近くまで出かけたブラダマンテ。  その前に立ちふさがる巨人と、踏み付けられたロジェロの姿…。  彼女の正気は、あっという間に吹っ飛んだ。  「貴様! ロジェロを離せ!!」 突進していくブラダマンテ。…ああ、こうして警告むなしく、彼女もまた魔法使いのとりこに…。  ちなみに、この城には他にも、多くの人々が捕らえられていた。  最初のほうにちょろりと出てた、サラセン人の戦士フェロー。  ようやく恋人再会できて、国に帰ったはずのフロリマール。  まだいたのか、グラダッソ。  そして何故だかオルランドゥ。  だが彼らは魔法使いの幻によって互いの本当の姿を見ることが出来ず、全く見知らぬ人ばかりだと思い込んでいた。

 だとしても、ちょっと会話すれば相手が誰だか気づくような気がするんだが^^;

 こうしてメインキャラがみんな捕まってしまったとき…そう、誰もいなくなったときこそ、彼の出番である。

 カモン! アストルフォ!!

 「やあ、呼んだかい? 君。この美しいボクこそ、真の勇者さー♪」(じゃらじゃらーん)

 なんかナルシーな喋り方でスマンが、こいつ、美貌と財力では登場人物中No.1のキャラなのね。

 それゆえか、女性キャラに無意味に優遇されることが多い。

 ロジェスティラの国をたつとき、彼はロジェスティラ自身から、魔法の角笛と、あらゆる魔法のヒミツが書いてあるという、知恵の書を受け取ったのだ。

 …攻略本かよ^^;  角笛は角笛で、他のあらゆる武器が役に立たないとき、つまりピンチの時に吹きなさい、と、いうことで、これもお助けアイテムのようだしさ。

[現在のアストルフォの装備]

騎馬;駿足名馬ラビカン

乗っているとエンカウント無し/フィールド移動速度2倍

右手;魔法の槍 

必ず相手に当たる一撃必殺の槍/「即死」効果/即死耐性のキャラにはダメージ&3ターン行動不能

左手;魔法の攻略本 

あらゆる魔法を無効化/ただし装備しているだけでは効果が無い

どうぐ;黄金の角笛 

聞くものを恐怖に陥れる/使うと「逃げる」コマンド成功率100%

 人生ナメてんのかと言いたくなるような、超過保護装備じゃないですか。奥さん。  これではボス戦でもない限り死なないよ。しかも…装備品のほとんどが、人にもらったとか、棚ボタで手に入れたとか、そんなんばっか。  いいのかそれで。人生すべて「運」と「顔」なのか?!

 「なんとでもいいたまえ、モ・ナ・ムー! 天さえもボクを愛しているということさ」

いや、わけわからんて。  とにかく今はお前しかいないんだし、とっとと行って、皆を解放して来い。  「言われなくても行くさ。美しい男には使命がよく似合う…ハイ・ヨー!」 颯爽と駆け行くアストルフォ。毒蛇や盗賊に出会っても、ドン・ウォーリー。困ったときは角笛を吹けば、ごらん、皆恐怖で逃げてゆくよ!  野獣と出会ってもダイジョウブ!  だけど魔法使いを甘く見ちゃいけない。  水を飲もうと馬をおいといたそのスキに、乗馬ラビカンが、アストルフォに攫われてしまったのだ!  「おお。なんてことだ。こんなときは…!」

馬を失い、道に迷ってしまったアストルフォは、ロジェスティラに貰った魔法の攻略本を開いた。

 これさえあれば、どんなめくらましだって怖くない。  「なんだ。こんなところに城があるじゃないか~♪」  目くらましをサクサク破って入り込んでくる騎士がいることに気づいたアトラントは、大慌てだ。「ならばこれを喰らえ!」  魔法の攻略本の唯一の弱点は、魔法を破ることは出来るが、自分に魔法がかけられるのを防ぐことは出来ないということだった。  城にいた捕虜の騎士たちには、助けにやってきたアストルフォが奇怪な化け物に見えていた!  「うおお! 何だ?! 化け物だ!」  「化け物が襲ってくるぞ!」 捕虜たちは、あっというまに大パニック。そこにはオルランドゥもいるしロジェロもいる、ブラダマンテだっている。戦ったらアストルフォに勝ち目は無い。

 「おぉ…マイ・フレンズ。嘆かわしいことだ、このボクが分からないなんで。でも大丈夫さ、そんな君たちの目を覚まさせてあげる。聞きたまえ…悪夢より目覚める美しいモーニング・コールの音色を! ハッ!」

 アストルフォは思いッきり、魔法の角笛を吹き鳴らした。その音色は恐怖のしらべ、あらゆる生き物の心に本能的な恐れを呼び覚まさせ、騎士たちは蜘蛛の子を散らすように大慌てで遠ざかろうとした。しかもその中にアトラントも入っちゃってる。(笑)  こうして誰もいなくなった城で、アストルフォは悠々と、城の破壊にいそしめたという。  かくして魔法は解け、城は崩れ、あとには瓦礫の山が残った。  夢から覚めた人々は、ようやく、今自分のいる場所と、自分の目の前にいる人々を知ったという。長い冒険の果てにようやく恋人と出会えたブラダマンテとロジェロも、手を取り合って喜んだ。  「あなたが無事でよかった、ロジェロ…!」  「ああ。君に逢うことをどれだけ待ち望んだことか、ブラダマンテ。愛しているよ、結婚してくれ」

 「もちろんよ、あなたがキリスト教徒に改宗して、私の父・エイモン公に申し出てくれるのなら。」

 「そのくらい、どうってことないさ! 君のためなら!」 オイオイ。信仰ってそんな簡単に捨てられるモンなのか^^;

 かくして、長い苦難のすえ結婚を前提にしたお付き合いまでコギつけた二人だったが、このまま仲良く国へ帰還、とはいかなかった。

 懐かしいあの人、マンドリカルドがやって来て、以前の決着をつけようなどと言い出したからだ。一体どこから、ロジェロがここにいることを嗅ぎ付けてきたのだろうか。^^;  マンドリカルド「ヘクトルの紋章は、このオレにこそ相応しい。ロジェロ! オレと勝負しろ!」  ロジェロ「おいおい…。またかい…。」  ブラダマンテ「仕方が無いわね。止めても無駄なようだし、私は国が気になるから先に戻っているわね。」  アストルフォ「ブラダマンテ、ではボクの槍と馬も、先に持って帰っておいておくれよ。ボクはあの素敵な翼の生えた馬と旅をしてみたいのさ♪」

 ブラダマンテ「ヒッポグリフ? そうね、またロジェロがあの変わった馬に攫われるのはイヤだから、貴方が乗っていってちょうだい。(※暗に”アストルフォなら攫われてもいいや”と言っている^^;)」

 こうして、ようやく魔法使いアトラントの出番は終了。  アストルフォは大空へと旅立ち、そしてまたいつか、僕らの前に帰ってくる。  ありがとうアストルフォ、本当にありがとう。僕らは君のことを決して忘れない…!

[って、ンなことしててフランスは大丈夫なのか? 戦争はどうなった!-次回へつづく]

Resumir
アストルフォは、アビシニアでハルピュイアの襲撃に直面する。王の不祥事で呪われた国民を助けるため、アストルフォは黄金の角笛を使い、ハルピュイアを恐れさせて封印する。次に、聖ヨハネからオルランドゥの理性を取り戻すために月へ行くよう指示され、空へ飛び立つ。物語は騎士文学とSFが融合した展開を見せる。