第9話 溢れ出す違和感、その行きつく先は - 【WEB版】ガリ勉くんと裏アカさん ~散々お世話になっているエロ系裏垢女子の正体がクラスのアイドルだった件~(鈴木えんぺら@『ガリ勉くんと裏アカさん』) - カクヨム

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「ふぅ……それにしても、やっぱり『RIKA』さんは最高だぜ」

 独り言ちつつ、勉(つとむ)は苦笑した。

 何だかいつも同じことを口にしている気がしてきたからだ。

 ……まぁ、事実なので何も問題はない。

 鼻歌交じりで『RIKA』フォルダの画像をスクロールしていく。

 最初に投稿されていたのはホットパンツを履いた下半身の画像。

 思わず頬ずりしたくなるような白い脚に魅せられて、ノータイムでフォローしたことを覚えている。

「このあたりはまだエロ画像って感じじゃないな」

 初期の写真はだいたい普通に服を着ているものが多かった。

 だんだんと下着をチラ見せしたり、アングルを工夫するようになったり……

 順を追って目を通していくと、投稿されている写真が徐々に過激なものになっていることに気付かされる。

 それは自己顕示欲あるいは承認欲求の肥大化を顕わしているのかもしれない。

 何か彼女が深刻なトラブルに見舞われていて、心が悲鳴を上げているのかもしれない。

 無責任にエロ画像を楽しんでいる自分を情けなく思うも、同時にどうしようもないとも思う。

「でも、さっき繋がったな」

 元気を出してほしいという思いから投稿したコメント。

 中身はかなり酷いものであったが、なんと当の本人から返信があった。

 これまで勉は『RIKA』のことを断絶した世界に住む宇宙人のような存在だとばかり考えていた。

 違った。彼女もまた、この日本のどこかで暮らしている普通の日本人に過ぎない。

「……」

 彼女がSNSで拡散してきた自撮り画像を一枚一枚検分する。

 別に深い意味があるわけではない。

 たまたまコメントを貰って舞い上がり、これまでの振り返りがしたくなっただけだ。

 我ながらチョロいな、と自嘲せざるを得ない。

 勉のスマートフォンに収められた『RIKA』の画像は多彩にして多数におよぶ。

「……む?」

 ニヤニヤしながら投稿写真を見ていると、妙な引っ掛かりを覚えた。

 何が気になっているのか、自分でもよくわからなかった。

「……なんだ?」

 ひとり暮らしの勉の疑問に答える者などいない。

 でも――奇妙な感覚は『RIKA』の写真から感じる。

 ならばと気合を入れて画像を子細に観察することにした。

 遠くに離して、近くに寄せて。上から下から横からなどなど……

「気のせいか……どこかで見たことがあるような」

 アカウントを発見してからこれまでの間に、数えきれないほどの写真を閲覧してきた。

 そういう話ではない。引っかかっているのは、記憶だ。現実のどこかで見たような気がするのだ。

 バカバカしいと思った。これだけの魅力的な肢体、一度でも目にすれば絶対に忘れない。

 そもそも16年と少々に渡る勉の人生において、異性との関わりはそれほど多くはない。

 幼少期に出会った人間は除外できる。当時の姿とスマホ内の画像が一致するわけがない。

 リアルで見たことがあるとすれば、割と最近のはずだ。もっと数は絞られる。

 母親、義妹、クラスメート、教師。バイト先の店員は男ばっかりなので除外。

「お袋のわけがない。義妹も違う。教師……違う。となると……」

 服の上からでもわかるボリュームで存在を誇示する胸。

 そこから柔らかい曲線でくびれが描かれ、腰を経て下半身へ向かう。

 お尻の位置は高く、脚は長い。程よく肉がついた柔らかそうな脚。

 腰まで届くストレートの黒髪。

 写真の中の『RIKA』はいつも堂々と大胆なポーズを決めている。

 相当強気であり、自分に強い自負を持っていることが伺える。

 昨日までは違和感なんてなかった。

『RIKA』の画像は毎日見ている。

 更新される日も、されない日も。

 ならば……どうして今日になっていきなり?

――昨日と今日で決定的に異なる『何か』があったということか。

「つい最近どころじゃない。今日……なのか?」

 自分の唇から漏れた推測が信じられなかった。

 この過程が正しいとすると、該当する人物なんてほとんどいない。

「ん? これは……『RIKA』さん、こんなところにほくろがあったのか」

 本日更新されたチャイナドレスのバックショットだ。

 スリットから大胆に露出している右脚、その膝の後ろに小さなほくろがあった。

――膝の裏にほくろ?

 今日。

 膝の裏にほくろ。

 同年代の女性。

 バラバラの情報が勉の脳内でひとつの仮説を組み上げていく。

「……これ、立華(たちばな)か?」

 立華。

 立華 茉莉花(たちばな まつりか)。

 同じクラスの女子。

 昨年度のミスコンを制覇するほどの、圧倒的な美少女。

 職員室を出て勉の前を歩いていた姿が思い出される。

 短いスカートから伸びる白くてスラリと長い脚。

 その膝の裏にほくろがあることを、今日になって気がついた。

 もともとクラスメートであること以外に接点のない間柄だ。

 だからこそ、そんなマニアックな部分を観察する機会もなかった。

 艶やかな黒髪は腰のあたりまで伸ばされていて。

 クラスの中心人物として常に堂々と振る舞っている。

 ロングストレートの黒髪、自信に満ちた佇まい。

 どちらも『立華 茉莉花』と『RIKA』に共通している。

「まさかな」

 スマートフォンのディスプレイに映った勉の口元は、いびつに曲がっていた。

『RIKA』は日本のどこかにいるのだろうけれど、自分とは縁のない人間だと決めつけていた。

 疑問を抱いたことはなかったし、残念だと思ったこともなかった。それでいいと納得していた。

 でも……

『嫌なことがあった』

 投稿に付されていたコメントが思い出される。

 ちょうど今日、茉莉花にも嫌なことがあった。

 生徒指導教諭に難癖付けられて、無理やりメイクを落とさせられそうになっていた。

 合致する。合致してしまう。

 貯め込んだ画像を見れば見るほど、『RIKA』と茉莉花のイメージが見事に被る。

「……マジか、マジなのか?」

 ゴクリと唾を飲み込んだ。喉がカラカラになっている。

「どうすればいいんだ、これは……」

 まだ、あくまで可能性の話だ。

 この世の中には似た人間が3人は存在するなんて話を聞いたことがある。

『立華 茉莉花』と『RIKA』はただのそっくりさん。

 そう考えた方が、よほど納得できる。『RIKA』の顔は見ていないが。

『真実を知りたい』と思った。『知ってどうする?』とも思った。

 事が事だけに、迂闊に誰かに相談することもできない。

 目を閉じてベッドに仰向けになって大きく深呼吸。口から漏れる吐息が熱い。

 いつの間にか全身からおかしな汗が噴き出していて、ひどく不快だった。

 開けっ放しになっている窓から流れてくる風も、やけに生暖かかった。

Resumir
勉はSNSで『RIKA』の画像を楽しむ中、彼女の写真に見覚えを感じる。初めは普通の服装だったが、徐々に過激な内容に変化していく。彼は『RIKA』が同級生の立華茉莉花である可能性に気づき、彼女の美しさと自信に驚く。彼女の投稿が心の問題を反映しているのではないかと考えつつ、彼女との接点のなさを自覚する。